酒母(しゅぼ)は日本酒の「元(もと)」になる重要なもの
日本酒ラベルやメニューに「きもと」「やまはい」と表記されているものを見たことはありませんか?
これは日本酒を造る上で重要な「酒母」の造り方の違いから来ているものです。日本酒好きでも聞きなじみが無いかもいるかもしれません。酒母(しゅぼ)と読みます。この酒母は日本酒を造る「もと」になるものです。
酒母とは
酒母とは「日本酒のアルコールを造り出すのに必要不可欠な清酒酵母を大量に純粋培養したもの」です。
酒母は「清酒酵母は乳酸に強い」という性質を利用して造られます。
日本酒を造るためには清酒酵母が働かないといけません。酒母の一番の目的は他の細菌を排除し、清酒酵母を大量に培養することです。
他の微生物は強い乳酸性の中では生きられません。逆に酵母は乳酸に強いという性質を持っています。酵母だけが酒母内で生存している状態にするには、乳酸を大量に含有している必要があります。
この乳酸を含有させる方法によって、ふたつのタイプの酒母の造り方があり、ひとつ目を速醸系酒母、もうひとつを生酛(きもと)系酒母と言います。
速醸系酒母と生酛系酒母の違い
現在造られている日本酒のほとんどが速醸系酒母ですが、それぞれ造り方が違います。
速醸系酒母
仕込み時に乳酸と酵母を一緒にタンクの中に入れます。
水中、または空気中から入り込んだ雑菌や微生物は乳酸によってやっつけられます。酵母は雑菌たちに邪魔されることなく、増殖が出来ます。
生酛(きもと)系酒母
乳酸を添加するのではなく、空気中や麹に付着している乳酸菌から乳酸を発生・増殖させます。硝酸還元菌(※仕込み水の中に存在し、低温で活動する)や乳酸菌を利用して酒母内を酸性に持っていき、酵母を増やします。そのため、速醸系酒母よりも仕上がりに時間がかかります。
さらに生酛(きもと)系酒母には生酛(きもと)仕込みと山廃仕込みがあります。
生酛(きもと)仕込みと山廃仕込み
山廃(やまはい)仕込みは生酛系酒母の一種で、山廃(やまはい)とは「山卸(やまおろし)廃止もと」の略です。
生酛(きもと)系酒母を造る際の初期の段階では山卸(やまおろし)という作業が行われます。
生酛(きもと)仕込みはこの山卸作業を行って造られた酛(もと)、山廃仕込みはこれを行わずに造られた酛(もと)のことを言います。
山卸(やまおろし)作業とは
山卸は桶に入れた蒸し米と麹、水を【櫂(かい)】という細長い棒状のもので、お粥状態になるまですり潰していく作業です。
麹の糖化を助けたり、空気中の乳酸菌を取り込みやすくする目的があるのですが。雑菌が繁殖しないよう、低温の中長時間行わなければならない重労働なのです。
昔は極寒の夜中、メンバーの動作リズムを合わせ、時間を測るために「もとすり唄」を歌いながら一晩中行われていました。
ところが明治時代にこの重労働の山卸作業をしなくても、麹を水に加えて酵素を出させた状態で蒸し米を投入すれば、山卸と同じ効果が得られることが判明しました。
お米を人がすり潰すのではなく、麹の力で溶かすことで、山卸作業は必要なくなったのです。
これが山卸廃止=山廃(やまはい)の誕生です。
山卸作業をして作った生酛系酒母=生酛(きもと)
山卸作業をしないで造られた生酛系酒母=山廃酛(やまはいもと)
山廃もとは山卸作業を省略していますが、生酛(きもと)同様、乳酸菌から乳酸を発生させて造るため、管理の手間も時間もかかります。
速醸酛と生酛、味の違いはあるの?
生酛(きもと)系酒母には乳酸だけでなく、乳酸菌や戦い合った他の菌達が発生させた成分がたくさん入っています。
なので一般的には生酛(きもと)系酒母から造られたお酒の方が、速醸系酒母から造られたお酒よりも味わいが複雑で、深みが出てきます。
速醸系酒母 | 生酛系酒母 |
速醸酛・生酛・山廃酛。
このように日本酒の「もと」のつくり方にもいくつかあり、この「もと」の造り方、出来具合によってお酒の味が大きく変わってきます。
きもと系の日本酒を飲む機会があったら「菌たちが頑張ったお酒なんだなー」と思って味わってみてください。菌達の戦いの結果の、力強い味、酸味や旨味を感じられると思います。