元きき酒師の日本酒講座と育児お役立ち情報ブログ

火入れ酒と生酒の違い

日本酒は「火入れ」という作業をしている

日本酒は仕上げの段階で「火入れ」をします。
火入れとは日本酒内で発酵している酵母の働きを止め、品質を安定させるための作業のことを言います。

ラベルに何も書いていなければ通常は火入れされた日本酒です。
火入れと言っても直接火はかけません。通常は60~65度くらいの低温殺菌です。

※火入れ図をいれる。

火入れの目的

まだ活性している酵母の働きを止める(酵母を死滅させる)

酵母が生きたままだと、日本酒内の糖をどんどんアルコール発酵が進み、絞った直後の味と変わってしまいます。
そこで火入れをすることで酵母の働きをとめることで、品質を保つことができます。

火落ち菌を殺菌するため

火落ち菌とは?

乳酸菌の一種で、日本酒を腐敗させる原因となるものです。
通常、他の菌は日本酒のアルコール度数と乳酸濃度に耐えられず、死滅しますが、火落ち菌は20%近くの高濃度アルコールの中でも生きることが出来ます。

人が飲んでも害はありませんが、日本酒の中の火落ち菌が増えると悪臭を放ち、白く濁ってしまいます。味も酸っぱくなり、飲める品質では無くなってしまいます。

この火落ち菌による腐敗を防ぐために火入れをするんだね。

そうです。火入れの目的は品質を安定させることなのです。
ただ、火入れをすることで香りや味が飛んでしまう、というデメリットがあります。

火入れをしていないお酒=生酒!

「生酒」と書かれた日本酒を見たことありませんか?

通常のお酒は2回、火を入れていますが、生酒はこの火入れをしていないものです。
2回火入れを前提として、全く火入れをしていない生酒を生酒を生生酒、本生酒、なんていう言い方をします。

火入れを行っていないので品質は不安定ですが、日本酒本来のフレッシュな香りと味を楽しむ事ができます。

また、1回だけ火入れをする生酒もあります。

火を入れるタイミングはタンクに貯蔵する前と、出荷時の瓶に詰める前に行われますが、そのうちのどちらかしか火入れをしないものをそれぞれ生詰め、生貯蔵といいます。

生詰めと生貯蔵の違い

生詰め…日本酒を絞った後、火入れをし、貯蔵。2回目の火入れをせずに瓶に入れ出荷。
生貯蔵…日本酒を絞った後、火入れをせずに貯蔵。瓶詰め時に火入れをし、出荷。

火を入れるタイミングで言い方が違うんだね。

火入れの違い。タイミング、回数によって言い方が変わります。

生詰めと生貯蔵は生酒ですが1回火入れをしているので厳密には「半生酒」ですね。

火入れのタイミングが違うのはもちろんですが、味にも違いがあります。
生詰めは貯蔵時に1回火入れをしているので、酵母は死滅し、発酵は進みません。なのでゆっくりと熟成のみが進み、ふくらみのある味となります。

一方、生貯蔵は貯蔵時に火入れをしないので生酒同様、フレッシュな香りを感じることが出来ます。と、同時に貯蔵中にアルコール発酵や熟成も進むので旨味を感じることもできます。

どちらも通常のお酒と違って1回しか火入れをしていないので生酒特有の水々しさはありますが、ふたつを比べてみると

生詰め…熟成感が出る(=貯蔵期間約半年)
生貯蔵…フレッシュ感が出る(=貯蔵期間2週間~数か月)

となる傾向にあります。

生貯蔵は貯蔵前に火入れをしないので発酵が進んでしまうため、あまり貯蔵期間を長くしません。
逆に生詰めは火入れをして半年ほど貯蔵期間を置くので熟成感が出る訳です。

「生詰め酒」は春先に出来上がったお酒を半年貯蔵し、秋に卸す(=出荷)することから別名「ひやおろし」または「あきおろし」と呼ばれます。

ひと昔前までは1回目の火入れ後、秋まで貯蔵するので「古酒」扱いでした。

夏の間熟成が進むのでフレッシュ感は感じず、まったりと落ち着きのある味になるのが特徴です。

ほほーのかえる
けろりん
ひやおろしも生酒だったんだね。

品質の安定性は2回火入れ酒>生詰めと生貯蔵(1回火入れ酒)>生酒の順になります。

お肉で考えてみてください。

お肉を食べる場合、生肉のユッケはジューシーですが常温で保存しておくとすぐに傷んでしまいます。
良く焼いた肉は真夏日でなければ多少常温保存でも大丈夫ですよね。

日本酒も同じです。生酒は火入れを行っておらず、品質が安定しないので劣化しやすいです。
空気中の雑菌はアルコールに弱いですが、火落ち菌はアルコール耐性があります。生酒はこの火落ち菌は死滅しておらず、低温にしていることで活動をしていない状態。
室内で抜栓し、封をあけたまま放置しておくと、活動停止していた火落ち菌、室内に漂っていた火落ち菌が入り込み増殖する可能性があります。

火落ち菌の繁殖を防ぐためにも必ず冷蔵庫での保管が必要です。

火を入れて品質を確保することと、日本酒のフレッシュさを同時に保つことは中々難しいんです。

そこで最近はタンクで貯蔵するのではなく、「瓶燗火入れ」という方法を取る蔵元さんが出てきました。

日本酒を絞ったらすぐに瓶に入れ、大きな容器でそのままお燗にするように加熱する方法です。

これだとタンク貯蔵に比べて空気に触れる時間が少ないため、主に品質を確保するための目的である、2回目の火入れを行わずに済みます。
結果、1回の火入れで品質を保ちつつ、生酒のようなフレッシュ感を閉じ込められるのです。

吟醸系の、華やかな香りを大切にしたいタイプのお酒でこの手法が使われることが多いです。

地方に行ったら生酒を飲もう!

上述のように生酒は品質がとても不安定で管理が難しいものです。なので小さい蔵元さんで造られた生酒はあまり都心部には出回らないものも多いです。

実際私も地方で日本酒を飲んだ時、「この銘柄の火入れ酒はよく見るけど、生酒もあったんだ!」と感動したことがあるよ。

もし旅行や出張で日本酒を飲む機会があったら是非、生酒を飲んでみてね!(同じ銘柄の火入れ酒があれば飲み比べてみても面白いよ!