結論から書いてしまうと…
燗に向く日本酒…純米酒、生もと、山廃造り、熟成酒
燗に向かない日本酒…大吟醸酒、吟醸酒、生酒、新酒
というのが一般的です。
その理由は…
温度によって感じやすい味覚が変化するため、日本酒の特長を強調したり消してしまったりするから
です。
前回は器の形状によって、お酒の味が違って感じられることを書きました。
酒器を気にしてみると日本酒はもっと美味しくなるよ 「日本酒はおちょこで飲むもの」と思っていませんか?ワイングラスにはシャンパングラス用、味の濃いボルドー用等、様々なグラスがあります。なぜグラスの形が違うのかというと、飲み口も香りも味も全然[…]
今回は温度の違いによる日本酒の味の変化について見ていきたいと思います。
「味覚」は温度によって感じ方が変わる
甘味・酸味・苦味・旨味。これらの味覚は温度帯によって感じ方が変化します。
- 甘味・旨味⇒高温帯、低温帯では感じにくく、体温に近い温度が一番感じやすい
- 酸味⇒温度による変化を受けにくい
- 苦味⇒温度が上がると感じにくく、下がると感じやすい
甘味
体温に近い温度帯の時に一番甘味を感じます。
酸味が少なく甘味を感じやすい桃やぶどう等の果物は、冷蔵庫で近々に冷やしたものより、常温にしておいたものをそのまま食べる方が香りも味も甘く感じるのはそのため。
アイスクリームや甘いジュースのカロリーが高めなのは、冷たい食べ物や飲み物は甘さを感じにくいため、糖分がたくさん入っているからです。
旨味
甘味と同じく、体温に近い温度帯で一番旨味を感じることが出来ます。
酸味
酸味は温度による変化は実はあまりありません。ですが、日本酒に含まれている酸(乳酸、コハク酸、アミノ酸)は温度が上がると成分が変化し、旨味成分に変化します。
渋み、苦味
渋みや苦味は温度が下がる事で強く感じるようになります。
渋みの温度による味の変化はコーヒーやお茶を飲んだ時に感じることが出来ます。
温かいまま飲んだ時には感じなかった喉にひっかかるような、苦味を感じませんか?これは冷えることで苦味が増した、ということです。
日本酒を「温める」、「冷やす」と味はどう変わる?
日本酒に含まれる味覚には主に甘味、酸味、旨味、渋み・辛み(アルコールの刺激による)、苦みがあり、様々な味の要素が絡み合っています。温度が変わることで味はどう変化するのでしょうか。
温めることによる味の変化
②酸の成分が旨味成分に変化し、味にボリュームが出る
③熟成に似たなじみ効果が得られ、味がまろやかになる
④アルコールの刺激が強くなる・香りを強く感じる
冷やすことによる味の変化
①甘味や旨味が抑えられ、引き締まった飲み口になるので、スッキリと感じられる。
②酸味を感じられ、爽やかさが増す。
③渋みを感じやすくなる
④旨味を感じにくく、ボリューム感が無くなる
実はたくさんある!日本酒の温度表現
ひとことで日本酒を「冷やす」、「温める」と言っても日本酒の飲用温度帯にはかなり幅があるのが特徴です。
どの温度帯で飲むかは好みの問題もありますが、現在、日本酒の飲用温度は下記に分類されます。
- 5℃⇒雪冷え(ゆきびえ)
- 10℃⇒花冷え(はなびえ)
- 15℃⇒涼冷え(すずびえ)
- 20~25℃⇒常温
- 30℃⇒日向燗(ひなたかん)
- 35℃⇒人肌燗(ひとはだかん)
- 40℃⇒ぬる燗
- 45℃⇒上燗(じょうかん)
- 50℃⇒熱燗(あつかん)
- 55℃⇒飛び切り燗
これは目安であって、絶対この温度でなくてはいけないということではありません。
花冷え(はなびえ)、涼冷え(すずびえ)、日向燗(ひなたかん)なんていう表現は趣があって素敵ですよね。普段はあまり使われない表現かもしれませんが、無くならないでほしいですね。
冷やして飲む方がおすすめ!な日本酒のタイプ
大吟醸酒、吟醸酒、生酒、新酒
吟醸系のお酒はフルーツ香を楽しめるのが特徴。この吟醸香はとても繊細で、燗にすると香りが飛んでしまいます。
また、バランスも崩れやすく、温度が上がることで甘味が強くなりすぎたりします。
香り系酵母を使い、その香りを液中に溶け込ませている吟醸酒は、冷やして飲んだ方が爽やかさが出ます。
同じく生酒も火入れをしていない、フレッシュ感を楽しむタイプなので冷やして飲まれることが多いです。
冷酒もいいけど燗にしても美味しいよ!な日本酒のタイプ
純米酒
香りも控えめで、甘味と酸味、苦味のバランスがいい純米酒タイプは常温~ぬる燗で楽しむといいでしょう。
生もと、山廃造り
生もとや山廃造りの日本酒は乳酸やアミノ酸がたくさん含まれている「濃厚」タイプ。
酸度が高めのタイプは酸味がうま味に変わるので、燗酒に向いていると言えます。
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本醸造系、普通酒
これらのタイプは醸造アルコールにより、すっきりした味わいに調整されており、香りも控えめ。
冷やすことでアルコールのキリっとしたシャープな味を引き立たせることが出来ますが、ぬる燗よりも少し熱めの上燗・熱燗にすることでアルコールのキレを感じやすく、引き締まったキレのある辛口に感じやすくなります。
熟成酒
熟成酒はエイジングにより、日本酒中の成分が旨味成分に変化し、味もまろやかになっています。あたためることでこれらの特長をより一層引き立たせることができます。
こうみると吟醸酒系や生酒系以外は温めて飲むことでまた違った一面を引き出すことが出来ます。
お米をたくさん削っており、香りを楽しむ吟醸酒系は、燗酒にすると香りが飛んでしまいがちなので冷やして出されることが多い訳です。
吟醸酒系はお米を削っている分コストがかかっており、値段も高くなりがちなので
と考えている方もいるか思います。
でも「吟醸酒を温めてはいけない」ということではありません。
日本酒はお米から出来ているお酒です。お米はホカホカご飯でも、ちらし寿司でも美味しく食べられますよね。
お米から出来ている日本酒は温度帯でも許容範囲が非常に広いんです。
おすすめの温度帯、というのは存在しますが、それに縛られ過ぎないようにしましょう。
お店で燗酒にしてくれないなら、自宅で燗をつける!
お店で「このお酒、温めて飲んでみたいな…」と思っても、お店では注文しにくい、断られるなどの制限があります。
でも自宅で自分で気になるお酒を購入して自由な温度帯を試すのは個人の勝手です。色々チャレンジしてみましょう。
上手に燗をつけるコツ
美味しく燗をつけたければ、湯煎がおすすめ
湯煎することで均等に温度を上げていくことが出来ます。
まず、お鍋にお湯を張ります。お湯の量は酒器の肩の高さ(7・8分目)がつかる程度に調整します。温度は沸騰しない75~80度くらい。
酒器に注いだ日本酒をそのお湯の中に浸けます。2~3分するとぬる燗(40~45℃)くらいまで温度が上がります。
湯煎するならお燗メーターがあると便利♪メーターに熱燗、温燗、ひやの温度帯範囲の表記があり、好みの温度帯が一目で分かりますよ。
お酒を温めていると、30℃を超えるくらいで急に温度上昇のスピードが上がるので、ぬる燗でストップしたい時は温度計が30~35℃になったくらいでいったんお湯から引き上げ、様子を見るのがポイントです。
やっぱり湯煎は面倒!であれば電子レンジでも可
耐熱容器に日本酒を注いで電子レンジを使用して燗酒に出来ます。
ただし湯煎よりも温度ムラが出やすいので、マメに取り出しながら酒器を揺らして温度が均一になるようにかき混ぜましょう。
レンジで燗をつけるとどうしてもとっくりの上下で温度差が出てしまうし、注ぎ口が熱々になる!という場合は
ムラなく温められるとっくりを活用する方法もあります。
電子レンジで簡単に熱燗ができる!月桂冠 電子レンジ対応徳利
通常のとっくりは首部分ばかりに熱が集中し、底部分は冷たいまま…ということが多いのですが、この徳利はお酒の対流が起こりやすく、お酒が混ざりやすい構造に設計されています。
↓お好みの燗の温度によって細かくレンチンの秒数が表記されています♪
自宅で様々な温度帯の味を試してみよう
常温状態からぬる燗(40℃)にしたものと、いったん熱燗(50℃)まで上げてぬる燗まで冷ました「燗冷まし」の日本酒は味が変わります。
自分で温めることができると、どんな日本酒を燗つけようが文句を言われません。
少しずつ温度を上げていって好みの温度を見つけたり、新しい発見があったりします。
日本酒の温度帯にもっと自由な気持ちで「実験」してみてくださいね。