米麹の役割は酵母の「えさ」を造り出すこと!
前回は、麹菌のお話を書きました。
麹菌をお米に生やせたものが米麹。さらにその生やせ方も、目指す味によって「突き破精」か「総破精」が選択されます。
麹菌の働き 日本酒醸造に関わる言葉の中で出てくる「麹」とは麹菌を穀物に繁殖させたものの総称です。 穀物に繁殖させるので米に繁殖させたものを米麹、芋や麦に繁殖させたものをそれぞれ芋麹、麦麹と呼びます。 日[…]
この米麹の役割ですが主に
①米のでんぷんをブドウ糖に変える
②酵母に栄養素を供給する
③香りに影響を与える(麹の代謝成分が香味となる)
がありますが、特に①の役割が重要です。
日本酒のアルコールを造る酵母は糖分をエサにアルコール発酵を起こします。
つまり、米のでんぷんのままでは酵母のえさとはならず、アルコール発酵は起こりません。日本酒は出来ないんです。
麹の糖化とアルコール発酵が同時に行われるので、これを並行複発酵と言います。
でんぷんを分解し、酵母のえさとなる糖分を造り出すのが麹の最大の役割なのです。
酒米を蒸す理由
麹菌がでんぷんを分解しやすいよう、酒米は日本酒造りの工程で蒸されます。
炊飯器でお米を炊く時は水を入れて「炊き」ますが、酒米は水を切った状態で「蒸し」ます。
これはお米を「外硬内軟(がいこうないなん)」の状態にするためです。
麹菌の菌糸を内側まで生やせるため
お米の外側も柔らかいと麹の菌糸は表面を覆うだけで内側まで生えていってくれません。(外側の栄養だけで満足するから)
逆に外側が硬いと菌糸は柔らかい栄養部分を求めて奥へと生えていきます。中心部分はタンパク質が少なく、でんぷんが多い心白があります。心白部分まで菌糸が延びることで糖化力のある、良い米麹が出来るのです。
お米を溶けにくくし、発酵をゆっくり進めるため
日本酒はでんぷんの糖化と、酵母のアルコール発酵が並行して行われます。
お米が柔らかいと、麹菌は米を分解しやすいので糖をたくさん造ります。餌となる糖がたくさんあるので、酵母もアルコール発酵を早めます。
麹菌が出す酵素でお米が溶けきってしまうと、その段階で糖の供給が終わってしまい、糖分の少ない醪(もろみ)の中で酵母は自分のアルコールに酔ってしまいます。
糖化とアルコール発酵スピードのバランスが取れていないと、酵母がストレスを感じて増えられないし、発酵もうまく進みません。
外側が硬い事で米はゆっくりと溶けていき、麹は安定したスピードで糖を供給出き、酵母の増殖と発酵が進みます。
外硬内軟にすることで発酵をゆっくりと進め、糖化と発酵のバランスの調整が取れやすくなります。
雑味の多い米の外側をあまり溶かさないようにしつつ、アルコール発酵が進み過ぎて辛口に転び過ぎないようにする等、目指す味に応じて上槽するのは職人技なのです。
特定名称酒の麹米割合は15%以上
品質を保つため、特定名称酒の条件は麹米(米麹を造るために使用されるお米)の割合が15%以上と決まっています。実際は20%前後が多いです。
残りは掛け米と言って、「麹菌が生えていない」蒸されたお米が使用されます。
ただ、繰り返しになりますが米麹は「お米のでんぷんを糖に変換する役割」をするものです。
通常のお酒よりも糖がたくさん生産されるので、酵母は糖分を分解しきれません。麹由来のコクのある、非常に甘味の強いお酒に仕上がります。
糖化と発酵のバランスが難しいので管理が大変なお酒です。
適量の麹の図
全量麹の図
通常の日本酒は麹米が発生させた酵素で、掛け米をゆっくり溶かしていくことで、糖化とアルコール発酵のバランスを取っています。